『汚名』(NHK-BSP)😉

Notorious
101分 モノクロ 
1946年 アメリカ:RKOラジオ映画 日本公開:1949年 セントラル映画社

〝サスペンスの神様〟アルフレッド・ヒッチコックの代表作であり、映画史的にも古典的名作としての評価が定着している。
フランソワ・トリュフォーも『映画術 ヒッチコック/トリュフォー』で、「私にとって最高のヒッチコック作品であり、白黒映画では私の一番好きな作品」とヒッチコックに告白しているほど。

しかし、一方で、ヒッチコック作品をオンタイムで鑑賞し、本作も劇場公開時に観た日本の大御所評論家・双葉十三郎の評価は芳しくない。
『ぼくの採点表』ではかろうじて合格点の☆☆☆★★を付けているのだが、長文の批評ではいくつも欠点を指摘している。

とくに、現代の映画ファンにとっても説得力があるのは、デブリン(ケイリー・グラント)とアリシア(イングリッド・バーグマン)の性格と真意を理解しかねる、としている点だ。

FBIのデブリンは職務でアリシアと接触して関係を持ち、リオデジャネイロ在住のドイツのスパイ、アレクサンダー・セバスチャン(クロード・レインズ)と偽装結婚するように持ちかける。
こういう役を、1980年代のジェームズ・ウッズやエド・ハリスやクリストファー・ウォーケンあたりがやったら、ああ、本当は惚れてないんだな、と納得できるだろう。

ところが、1946年の本作では、当時の正統派二枚目俳優グラントが真面目な顔して演じているのだから、どうしても違和感が拭えない。

また、偽装結婚を拒否して当然のアリシアがデブリンの要求を受け入れ、セバスチャンと一緒に暮らしながら、延々とスパイ活動を続ける心理も理解し難い。
しかも、デブリンは定時連絡のために時々アリシアと会っており、その場所が誰に見られているかもわからない公園のベンチとくる。

心の内では愛し合っているはずのデブリンとアリシアが、せっかく会えたときにキスもハグもしようとしないのはあまりに不自然。
一方で、ずっとふたりの仲を疑っているセバスチャンと彼の母(レオポルディーネ・コンスタンチン)がアリシアに尾行をつけていないのもおかしい。

それでも、セバスチャンがアリシアの裏切りを察知してからのクライマックスは、ヒッチコック作品の中でも出色の盛り上がりを見せる。
とくに、セバスチャン親子がアリシアを病死に見せかけて毒殺しようとしていた最中、デブリンが屋敷に救出にやってきて、スパイ活動の黒幕たちの目の前で出て行く場面がサスペンスたっぷり。

この場面では下り階段の使い方が秀逸で、デブリンとアリシアを見送ったセバスチャンが屋敷の中に消え、閉じられた扉にジ・エンドのクレジットがかぶさる幕切れは圧巻。
本作は1944年に撮影されており、まだ原爆が広島に投下される前、いち早くウラニウムをネタにしているところも映画史的に特筆される。

最終的には、演出と映像の魔術がシナリオの破綻を凌駕して観客を呑み込んだ一篇。
こういう作品を観ると、やはりヒッチコックは神様だったんだな、と改めて思う。

オススメ度B。

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A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら🤨  D=ヒマだ ったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

11『マザーレス・ブルックリン』(2019年/米)B
10『エジソンズ・ゲーム』(2017年/米)C
9『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019年/米)C
8『ジョン・ウィック:チャプター2』(2017年/米)B
7『ジョン・ウィック』(2014年/米)C
6『容疑者、ホアキン・フェニックス』(2010年/米)C
5『宇宙戦争』(2005年/米)B
4『宇宙戦争』(1953年/米)B
3『宇宙戦争』(2019年/英)B
2『AI崩壊』(2020年/ワーナー・ブラザース)B
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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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