『陽だまりのグラウンド』ダニエル・コイル😁🤔🤓

Hardball:A season in the Projects
竹書房:竹書房文庫 翻訳:寺尾まち子、清水由貴子
361ページ 初版発行:2002年3月31日 定価648円=税別
原語版発行:1993年

18年前、キアヌ・リーブス主演の同題映画版の公開に合わせて、竹書房から文庫で出版されたダニエル・コイルの原作ノンフィクション。
僕が映画版をWOWOWで観たのは2014年で、コイルはそのころ、ツール・ド・フランスのドーピング・スキャンダルに関する報道で有名になっており、ランス・アームストロングのアシストだったタイラー・ハミルトンとの共著も上梓していた。

その本が傑作だったので、コイルが書いた少年野球の世界にも興味を覚え、amazonで古書を取り寄せたのだが、6年後の今日まで積ん読したまま。
コロナ禍もあって球場での取材機会が減った今年、ようやく手に取ってじっくりと熟読しました。

読み始めてすぐに感じたのは、キアヌ・リーブスとダイアン・レインのラブストーリーが色付けとなっている家族向けの映画版とは、内容も趣向もまったく異なるノンフィクションだということ。
映画版で詳しく説明されなかった物語の舞台は、シカゴの低所得者用住宅地区カブリニ・グリーン・ホームズで、夜な夜なギャングと化したティーンエイジャーが銃撃戦を繰り広げている。

1991年、シカゴの大企業の後援によって、この〝神に見捨てられたような街〟に20チームからなるリトルリーグの組織が発足した。
本書は、コイルがボランティアでコーチを務めたその中の1チーム、決して強いとは言えないファースト・シカゴ・ニアノース・キクユズの1シーズンを追った物語である。

人権に配慮しなければならない関係上、子どももコーチもすべて仮名。
チーム名も映画版のキカンバスとは異なり、リーブスのようなギャンブル依存症のコーチ、レインが演じた生真面目な教師も登場しない。

低所得者住宅街の描写も凄まじく、夕暮れになると銃声が聞こえ、夜になると子どもたちにとっては自宅のアパートに駆け込むことさえ命がけだ。
ビルという青年をはじめとするボランティアのコーチたちは、利かん坊の子どもたちに手を焼きながら、それでも懸命に野球を教える。

終盤には映画版と同様、リーグチャンピオンシップまであと一歩と迫るのだが、本書はあくまでもノンフィクションであり、ハッピーエンドとはいかない。
さらに、子どもたちを厳しく躾けて慕われていたカミナリ親父的な審判が、犯罪に手を染めて警察に逮捕されるという救い難いエピソードも出てくる。

そうした中、リーグ会長アル・カーターが吐露する言葉が重い。

「各チームには15人の子どもがいる。
いまから10年後、何人かはリーグに協賛している企業に雇われ、2人が死に、2人が刑務所にいて、2人が街を去り、残りは麻薬を求めて街をうろついているだろう。
1人でも救えれば、このリーグは成功だ」

広い世界には、というよりメジャーリーグのあるアメリカにも、こういう野球があるのだという事実を教えてくれた一冊。
コイルは現在、ベストセラー作家として成功を収めているが、キクユズと、ここに登場する子どもたちはどうなったのだろう?

😁🤔🤓

2020読書目録
面白かった😁 感動した😭 泣けた😢 笑った🤣 驚いた😳 癒された😌 怖かった😱 考えさせられた🤔 腹が立った😠 ほっこりした☺️ しんどかった😖 勉強になった🤓 ガッカリした😞

21『プロ野球審判 ジャッジの舞台裏』(2012年/北海道新聞社)😁😭😳🤔🤓
20『全球入魂!プロ野球審判の真実』山崎夏生(2019年/北海道新聞社)😁😭😳🤔🤓
19『平成プロ野球史 名勝負、事件、分岐点-記憶と記録でつづる30年-』共同通信社運動部編』(2019年/共同通信社)😁😳🤔🤓
18『球界時評』万代隆(2008年/高知新聞社)😁🤔🤓
17『銀輪の巨人 GIANTジャイアント』(2012年/東洋経済新報社)😁🤔🤓
16『虫明亜呂無の本・1 L’arôme d’Aromu 肉体への憎しみ』虫明亜呂無著、玉木正之編(1991年/筑摩書房)😁😭🤔🤓
15『洞爺丸はなぜ沈んだか』(1980年/文藝春秋)😁😭😢🤔🤓😱
14『オッペンハイマー 原爆の父はなぜ水爆開発に反対したか』(1995年/中央公論新社)🤔🤓
13『「妖しの民」と生まれきて』笠原和夫(1998年/講談社)😁😭😢🤔🤓※
12『太平洋の生還者』上前淳一郎(1980年/文藝春秋)😁😭😳🤔🤓😖
11『ヒトラー演説 熱狂の真実』(2014年/中央公論新社)😁😳🤔🤓
10『ペスト』ダニエル・デフォー著、平井正穂訳(1973年/中央公論新社)🤔🤓😖
9『ペスト』アルベール・カミュ著、宮崎嶺雄訳(1969年/新潮社)😁😭😢🤔🤓
8『復活の日』小松左京(1975年/角川書店)🤔🤓
7『感染症の世界史』石弘之(2019年/角川書店)😁😳😱🤔🤓
6『2000年の桜庭和志』柳澤健(2020年/文藝春秋)😁🤔🤓
5『夜のみだらな鳥』ホセ・ドノソ著、鼓直訳(1984年/集英社)😳🤓😱😖
4『石蹴り遊び』フリオ・コルタサル著、土岐恒二訳(1984年/集英社)😁🤓🤔😖 
3『らふ』森下くるみ(2010年/青志社)🤔☺️
2『最期のキス』古尾谷登志江(2004年/講談社)😢😳
1『黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄』奥山和由、春日太一(2019年/文藝春秋)😁😳🤔
 
※は再読、及び旧サイトからのレビュー再録

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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