『グリーンブック』(WOWOW)🤗

昨年、アカデミー賞の作品賞、脚本賞、助演男優賞を獲得し、日本でも大ヒットした実話に基づくヒューマン・ドラマ。
1962年、悪名高いジム・クロウ法による人種差別が続いていたアメリカの深南部でツアーを行った黒人ピアニストと、彼の運転手を務めたイタリア系白人の友情を描いている。

主人公は白人トニー・“リップ”・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)のほうで、ナイトクラブのバウンサーをしていたが、改装工事のために店が営業停止となって失業。
もともとは黒人嫌いで、妻ドロレス(リンダ・カーデリーニ)が自宅にやってきた黒人の工員にジュースを振る舞っているのを見つけると、彼らが口をつけたコップをゴミ箱に捨てたりするような人物である。

そんなトニーが黒人ピアニスト、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)の運転手として雇われ、最初のうちはいちいち反発しながらも、様々な出来事やトラブルを通じて友情を深めていく。
トニーが粗暴でヤクザっぽい男である一方、シャーリーは芸術家にしてインテリで、マナーや社会常識にも極めてうるさい、という対照的なキャラクターは『夜の大捜査線』(1967年)のロッド・スタイガーとシドニー・ポワチエを彷彿とさせる。

とくに、トニーが翡翠石をちょろまかしてシャーリーに叱責されたり、トニーが無理矢理勧めたケンタッキー・フライドチキンにシャーリーがハマったり、というエピソードの配列と活かし方がまことに秀逸。
また、シャーリーが演奏に招かれた屋敷で黒人用のトイレを使えと言われたり、ホテルのレストランで食事をしようとして拒否されたりして、シャーリーが怒りを爆発させる場面も大変印象に残る。

全体的にはアカデミー作品賞を受賞したことも十分うなずける出来栄えなのだが、アメリカ本国では監督スパイク・リーや俳優チャドウィック・ボーズマンら黒人の映画人に手厳しく批判されている。
彼らの目から本作を観ると、トニーは黒人を差別から救済するステレオタイプの英雄そのもので、あまりにも美化され過ぎており、差別の実態から大衆の目から覆い隠すものとなっているらしい。

また、本作はトニーの息子ニック・ヴァレロンガが製作と脚本を手掛けているが、シャーリーの遺族から「伝説的なピアニストについて誤解を与えるような内容になっている」という抗議も受けている。
ただし、不朽の名作『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年)がそうだったように、フィクションとしての完成度、歴史的事実との乖離、遺族や関係者の受け止め方はなどは別々に議論されるものだろう。

それにしても、『イースタン・プロミス』(2008年)でシェイプアップされたヌードを披露していたヴィゴ・モーテンセンが、還暦を過ぎてすっかり太っていたのにはビックリ。
大食漢の役だから、ある程度は役作りのためだったのかもしれないが、あれだけ出っ張った腹には隔世の感を覚えました。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2020リスト
A=ぜひ!🤗 B=よかったら😉 C=気になったら😏  D=ヒマだったら😑
※再見、及び旧サイトからの再録

18『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年/英、米)B
17『天才作家の妻 40年目の真実』(2018年/瑞、英、米)B
16『デッドラインU.S.A』(1954年/米)B
15『海にかかる霧』(2014年/韓)A※
14『スノーピアサー』(2013年/韓、米、仏)A※

13『前科者』(1939年/米)
12『化石の森』(1936年/米)B
11『炎の人ゴッホ』(1956年/米)B※
10『チャンピオン』(1951年/米)B※

9『白熱』(1949年/米)A
8『犯罪王リコ』(1930年/米)B
7『ユリシーズ 』(1954年/伊)C
6『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(2017年/泰)B
5『七つの会議』(2019年/東宝)A
4『キャプテン・マーベル』(2019年/米)B
3『奥さまは魔女』(2005年/米)C
2『フロントランナー』(2018年/米)B
1『運び屋』(2018年/米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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