『スキャンダル』☺️

Bombshell 109分 2019年 アメリカ=ライオンズゲート 日本配給:ギャガ 2020年

2016年、アメリカを代表する保守系ケーブルテレビ局FOXニュースのCEOが、女性キャスターにセクハラで訴えられた実話を映画化した作品。
キャンプ関連の原稿をきょうの午前中までにすべて書き終え、ポッカリ暇ができたところでTOHOシネマズ日本橋へ観に行ってきました。

連休中なのでカップルや家族連れが多いかと思ったら、意外に女性のグループやお一人様が目立つ。
それだけセクハラというテーマに対する関心度が高いのか、あるいはシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーら、豪華女優陣の同性支持率が高いのか。

開巻、本作は事実に基づいているが、一部で名前の変更、エピソードの創作を行っており、実在しない架空の人物も登場する、という断りのテロップが出る。
その直後にセロン演じる主役の女性キャスター、実在するメーガン・ケリーが登場し、観客に向かってFOXニュースがどのような会社か、概略を説明する。

FOXニュースの本社とスタジオがあるのは、ウォールストリート・ジャーナルやCNNなど多くのメディアがオフィスを構えたニューヨークの高層ビルの中。
CEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)は終日2階の個室にこもりきりで、いつも血眼になって番組をチェックし、ミスや気に入らない点を見つけると、編成局への直通電話ですぐさまカミナリを落とす、という日常の風景が面白おかしく紹介される。

なかなか興味深い内容ではあったが、このコメディータッチの導入部は、大手メディア内部のセクハラ問題を真正面から取り上げた本作全体の性格やトーンにはそぐわない。
このあと、映画のナレーターがセロンからキッドマン、ロビーへとバトンタッチされていくという手法も、昔ながらのラブコメやファミリードラマのようで、終始違和感がつきまとう。

FOXニュースで散々冷遇されたあげく、クビになったグレッチェン・カールソン(キッドマン)はエイルズをセクハラで訴えようと決意。
これに自分も追随してエイルズを告発すべきか、ケリーが悩んでいる最中、新人キャスターのケイラ・ポスピシル(ロビー)が新たなエイルズの犠牲者になる。

エイルズがケイラにスカートの裾を上げるよう迫る場面は、かつて殺人鬼や変質者役をやったら天下一品だったリスゴーが演じているだけに迫力たっぷり。
恐怖で涙を流しながらもエイルズのセクハラを受け入れ、ニュース番組のメインキャスターに抜擢されたケイラが、次第に派手な化粧と身なりでテレビ局内部を闊歩するようになるくだりも面白い。

一方で、まだ存命で実在の人物を素材にしているからか、描写や説明が食い足りない部分も目につく。
そもそもエイルズがカールソンにどのようなセクハラをしたのか、セリフで説明されるだけで、画面ではまったく明らかにされない。

カールソンもハラスメントを受けてすぐに抗議するのではなく、会社を解雇されてから訴訟を起こしているので、正義の告発というよりは腹いせではないかと勘繰りたくなる。
また、途中までエイルズに受けた恩義を強調していたケリーが、最後の最後になって心変わりし、10年前に受けたセクハラの告発に踏み切る過程も、映画を観ているだけではいまひとつ納得しがたい。

とはいえ、舞台となったFOXニュースに一切許可を求めず、映画を観て訴えたければ訴えろとばかり、自分たちの取材と調査だけでセクハラ事件を再現して見せたアメリカ映画人の度胸と決断力はあっぱれ。
こればかりは日本映画界がまだまだ逆立ちしても真似のできない領域である。

なお、この作品、日本では日本人メイクアップ・アーティスト、カズ・ヒロ(辻一弘)が『ウインストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』(2017年)に続いて2度目のアカデミー賞を獲得したことでも話題となった。
ケリーそっくりに作り込んだセロンのメイクが評判になっているが、リスゴーやルパート・マードック役のマルコム・マクダウェルのほうもスゴい。

採点は75点です。

TOHOシネマズ日本橋・新宿・日比谷・渋谷・六本木ヒルズなどで公開中

2020劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆😞 60点=退屈🥱 70点=納得☺️ 80点=満足😊 90点=興奮🤩(お勧めポイント+5点)

3『リチャード・ジュエル』(2019年/米)85点
2『パラサイト 半地下の家族』(2019年/韓)90点
1『フォードvsフェラーリ』(2019年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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