『地獄の英雄』(セルDVD)🤗

DVD10枚組 発行:株式会社コスミック出版 発売:2019年9月9日 定価1800円=税別

しばらく前、いつものように寝酒を飲みながらネットをチェックしていたら、こういうDVDセットが見つかった。
学生時代から興味を抱いていたものの、今日まで観られないまま、個人的幻の名作と化していた昔の映画をカテゴリー別に集めて、10枚1組、定価1800円よりも若干安いネット価格で販売している。

ロバート・シオドマク監督&バート・ランカスター主演『殺人者』(1946年)、キャロル・リード監督&ジェームズ・メイスン主演『邪魔者は殺(け)せ』(1947年)、エリア・カザン監督&リチャード・ウィドマーク主演『暗黒の恐怖』(1950年)などなど。
こういう伝説的名作が1作品180円弱で観られる、というのは大変うれしい半面、随分安くなったものだといささか複雑な気分になりますが。

Ace in the Hall,The Big Carnival 112分 モノクロ 1951年
 アメリカ=パラマウント・ピクチャーズ 日本公開1952年 配給:東宝洋画部

で、早速購入して真っ先に鑑賞したのが、このビリー・ワイルダー監督、カーク・ダグラス主演の『地獄の英雄』(1951年)。
かつてニューヨークのスター記者として鳴らした主人公(ダグラス)が、素行不良で地方紙に転職せざるを得なくなり、一流紙への復帰を狙って大スクープをでっちあげようとする。

ダグラス演じるチャールズ・テイタムは勤務中の飲酒、上司への暴行、無断欠勤などでニューヨークの高級紙をクビになり、流れ着いたニューメキシコ州アルバカーキの地方紙サン・ブルタンに潜り込む。
最初の1年間は真面目に働いていたが、ビッグニュースをつかむことができず、毎日毎日、つまらない、面白くないと同僚たちにぼやくダグラスの独演会が最初の見せ場。

見かねた編集長兼発行人ジェイコブ・ブーツ(ポーター・ホール)が、片田舎で行われているガラガラ蛇狩りのイベントでも取材してこいと指示。
写真部のカメラマン兼運転手の若者ハービー・クック(ボブ・アーサー)とともに立ち寄った先住民居留地ニスカデロで洞窟の落盤事故に遭遇する。

テイタムが洞窟に入ると、ニスカデロでガソリンスタンド、食堂を兼ねた民芸品店を経営するレオ・ミノーザ(リチャード・ベネディクト)が、崩落した岩に足を挟まれて抜け出せなくなっていた。
ここはインディアンの穴居時代の洞窟で、ミノーザは自分の店で商品になる遺物を探しにきて事故に遭ったのだ。

色めき立ったテイタムがブーツに連絡を取り、ミノーザの写真と談話をサン・ブルタンの1面に掲載させたところ、大手メディアも続々と追随。
このニュースが全米に広がる中、抜け目のないテイタムは、救出作業を指揮する保安官(レイ・ティール)を抱き込み、この事故に関するネタの独占を図る。

崩落事故自体はそれほど大規模で深刻なものではなく、洞窟の入り口からミノーザのいる現場まで補強工事を行えば、短期間で救出できる見通しが立っていた。
しかし、テイタムは事態を長引かせ、ニュースを膨らませるために、ああだこうだと理屈をつけて洞窟の上からの救出作戦を提案。

丘の頂上から現場に向かってドリルで縦穴を掘り、6日間かけてミノーザを脱出させれば大変劇的な救出劇になる、保安官も次の選挙で当選するのは確実だ、というのだ。
こうして一連の報道をテイタムが独占し、彼の記事によって全米からマスコミや見物客が車を連ね、特別列車まで仕立てて殺到。

様々な出店が立ち並び、ミノーザの応援歌を演奏する楽団も登場、ついには移動遊園地までやってきて、寂れていた先住民居留地は見違えるような一大イベント会場へと変貌する。
この大騒ぎで大金が転がり込んできたミノーザの妻ロレイン(ジャン・スターリング)は、かねてから田舎暮らしに倦んでいたこともあり、亭主が救出されたらすぐに離婚し、テイタムとともに自分もニューヨークへ行こうと考えていた。

序盤のテイタムの科白にもある通り、このストーリーは1925年に起こった実際の事故がモデルとなっている。
洞窟を観光開発することを目的とした探検家フロイド・コリンズがケンタッキー州のクリスタル・ケーブ(現マンモス・ケーブ国立公園)を探索中、落石に足を直撃されて動けなくなり、洞窟の上から縦穴を掘る大がかりな救出作業が行われたが、18日目に飢え、渇き、低体温症で衰弱死。

コリンズが死んで救出作業が終わるまで、この映画と同様、洞窟周辺にマスコミと見物人が押し寄せ、出店が軒を並べる大騒ぎが繰り広げられた。
テイタムはこの事件を引き合いに出し、写真部の若者ハービーに強調する。

「こういう事故はすぐに終わらせてはいけない、ミノーザが簡単に救い出されてしまってはドラマチックでも何でもない。
ミノーザの生還を長引かせることが読者の興味を惹きつけられる最大のポイントなんだ」

たかがひとりの中年男の救出作業が、それほどの大ニュースになるのか。
訝るハービーに、テイタムはさらに秀逸な科白を吐く。

「悲劇とは千人の中国人が洪水に呑まれて死ぬことではない(これも中国で現実に起こった天災)。
ひとりの人間(アメリカ人)が地下に閉じ込められて出られなくなることだ」

何がニュースになり、大衆の心理を揺さぶるのか、これほど的確に表した科白はなかなかない。
さすがビリー・ワイルダーの脚本だが、ここから先の展開が中途半端。

自分の亭主ミノーザの安否など気にせず、金儲けに血眼になり、やたらと秋波を送ってくるロレインに嫌気が刺したテイタムは、次第に彼女を敬遠し始める。
このあたりまでは納得できるのだが、衰弱していくミノーザを取材しているうちに仏心に囚われたのが運の尽き、テイタムが自ら破滅していくくだりはいささか安易で常識的なオチに走ったかのような印象が拭えない。

戦前から観賞歴を誇る映画評論家・双葉十三郎氏はこの欠点について、本作の前作『サンセット大通り』(1950年)まで10作以上組んでいた名脚本家チャールズ・ブラケットとのコンビを解消したことに原因があると指摘(『ぼくの採点表Ⅰ 1940 1950年代』トパーズ・プレス/1990年)。
ただし、テイタムを演じたダグラスは、これでもまだ主人公のキャラクターが悪ど過ぎると感じていたそうで、「もう少し観客が共感の持てる、愛嬌のある男にしたらどうでしょう」とワイルダーに提案し、にべもなく撥ねつけられたと自伝『カーク・ダグラス自伝 くず屋の息子』(早川書房/1989年)で語っている。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(*^o^*)  B=よかったら( ´▽`) C=気になったら(・・?)  D=ヒマだ ったら(。-_-。)
※ビデオソフト無し

121『ペイルライダー』(1985年/米)A
120『刑事マディガン』(1968年/米)C
119『十二人の死にたい子どもたち』(2019年/ワーナー・ブラザース)C
118『マスカレード・ホテル』(2019年/東宝)A
117『コンフェッション』(1998年/米)B
116『隣人は静かに笑う』(1999年/米)A
115『ミスター・ガラス』(2019年/米)C
114『アリー スター誕生』(2018年/米)A
113『荒野のストレンジャー』(1973年/米)B
112『セルピコ』(1974年/米)A
111『レイジング・ブル』(1980年/米)A
110『ニセコイ』(2018年/東宝)D
109『来る』(2018年/東宝)B
108『獄門島』(1977年/東宝)C
107『悪魔の手毬唄』(1977年/東宝)C
106『犬神家の一族』(1976年/東宝)B
105『止められるか、俺たちを』(2018年/若松プロ、スコーレ)C
104『モリーズ・ゲーム』(2017年/米)A
103『ガタカ』(1997年/米)A
102『デューン 砂の惑星』(1984年/米)C
101『ファイヤーフォックス』(1982年/米)C
100『デス・ウィッシュ』(2018年/米)C
99『人魚の眠る家』(2018年/松竹)A
98『焼肉ドラゴン』(2018年/ファントム・フィルム)B
97『アニメ 大好きだったあなたへ ヒバクシャからの手紙』(2019年/NHK広島放送局)A※
96『ひろしま』(1953年/北星映画)B※
95『硫黄島からの手紙』(2006年/米)A
94『父親たちの星条旗』(2006年/米)A
93『さすらいの一匹狼』(1966年/伊、西)C
92『リンゴ・キッド』(1966年/伊)C
91『皆殺し無頼』(1966年/伊)C
90『バリー・シール アメリカをはめた男』(2017年/米)A
89『スマホを落としただけなのに』(2018年/東宝)C
88『アントマン&ワスプ』(2018年/米)A
87『アイアンマン』(2008年/米)A
86『ミクロの決死圏』(1966年/米)C
85『クレオパトラ』(1963年/米)C
84『瞳の中の訪問者』(1977年/東宝)D
83『HOUSE ハウス』(1977年/東宝)C
82『マザー!』(2017年/米)B
81『アリー・イン・ザ・ターミナル』(2018年/米、英、愛、洪、香)D
80『ヴェノム』(2018年/米)B
79『ミッション:インポッシブル フォールアウト』(2018年/米)B
78『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(2015年/米)A
77『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011年/米)C
76『M:i:Ⅲ』(2006年/米)B
75『M:i-2』(2000年/米)C
74『ミッション:インポッシブル』(1996年/米)C
73『ダンテズ・ピーク』(1996年/米)C
72『スーパーマン4 最強の敵』(1987年/米)D
71『スーパーマンⅢ 電子の要塞』(1983年/米)C
70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
69『スーパーマンⅡ 冒険篇』(1980年/米)A
68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
66『検察側の罪人』(2017年/東宝)D
65『モリのいる場所』(2018年/日活)B
64『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(2017年/米)B
63『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2017年/韓)A
62『ゲティ家の身代金』(2017年/米)B
61『ブルーサンダー 』(1983年/米)A
60『大脱獄』(1970年/米)C
59『七人の特命隊』(1968年/伊)B
58『ポランスキーの欲望の館』(1972年/伊、仏、西独)B
57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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