『ターミネーター:ニュー・フェイト』

Terminator: Dark Fate 128分 2019年 アメリカ=パラマウント・ピクチャーズ
 日本配給:20世紀フォックス

傑作『ターミネーター2』(1991年)から28年ぶりに製作された〝正統的続編〟という触れ込みで、日米双方で大ヒットしており、評価も高いという。
実際、TOHOシネマズ新宿へ観に行ったら、老若男女、様々な世代の観客でほぼ満員になっていた。

ぼくはこのシリーズを第1作からほぼオンタイムで観ているが、正直なところ、この物語は『ターミネーター2』できれいに終わっている、という印象が強い。
劇場公開版もさりながら、コアなファン向けに編集された特別編、DVDとブルーレイのスペシャルコレクションにのみ収録された拡張特別編がまた、それぞれ非の打ちどころのない完成度を示しているからだ。

この作品が長年に渡り、世代を超えてファンに支持されているのは、単に〝マッチョマン〟アーノルド・シュワルツェネッガーが暴れ回るSFアクション映画だからではない。
人類を救う英雄となる少年ジョン・コナーの成長物語であり、そのジョンを身体を張って守る母親サラの母性愛が観る者の胸を打つからである。

だから、そのジョンをお調子者にキャラ変した最初の続編『ターミネーター3』(2003年)は成功するわけがなかった。
サム・ワーシントンがターミネーターとなってクリスチャン・ベールと対決する『ターミネーター4』(2009年)は面白かったが、これは前3作とはガラリと世界観を変え、シュワルツェネッガーをCGで数分間登場させただけの完全なリブート作品だった。

12年ぶりにシュワルツェネッガーが復活した『ターミネーター:新起動/ジェニシス』(2015年)は、『3』以上に強引なキャラと設定の変更が裏目に出た。
強い母親のサラがエミリア・クラーク演じる美少女となり、ジョンが終盤にきて〝悪役〟に転向、スカイネットの支配に乗り出したのだから、面食らったファンも多かったはず。

では、前作から4年後に製作されたこの『ニュー・フェイト』はどうだったか。
結論から言えば、『ジェニシス』よりはマシで、エンターテインメントとしての見どころも多いが、脚本に決定的な欠陥がある、というのがぼくの率直な感想である。

ぼくと同様、『T2』に感動したファンであればあるほど、本作『ニュー・フェイト』で語られるジョンの〝その後〟には違和感を覚えるのではないだろうか。
あの少年の成長物語も母子の愛情物語もいったん〝ご破算〟、という以上に台無しにされてしまったことにはガッカリさせられた。

また、『T2』のT-800(シュワルツェネッガー)は溶鉱炉で〝自殺〟しているため、本作に登場するT-800は別人(というより別物)であり、オープニングでは完璧な殺人マシーンとしてショットガンをぶっ放す。
ところが、約20年後にサラ(ハミルトン)と再会したら、すっかり人間臭くなっている上、サラが連れているダニー(ナタリア・レイエス)、グレース(マッケンジー・デイヴィス)を、自分が守ってやろうと申し出るのだ。

『2』までのT-800はあくまでもマシーンであり、ジョンに笑うように言われても唇を歪めることしかできなかった、というところにかえって魅力があった。
それが本作では、母子家庭に入り込んで人間の父親として振る舞い、決戦の前に妻や子供とハグしたりしているのだからドッチラケである。

敵役のターミネーター、REV-9(ガブリエル・ルナ)は例によって液体金属で、液体と骨格の2体に分かれて戦うことができるなど、現代に合わせてバージョンアップされている。
ただ、初めて見た『T2』のロバート・パトリック、それ以来14年ぶりだった『ジェニシス』のイ・ビョンホンまではまだ新鮮味があったけれど、3度目になるとさすがに芸の無さを感じないではいられない。

とまあ、いろいろ文句はつけましたが、クライマックスは大いに盛り上がるし、それなりに感動的。
入場料に見合うだけの娯楽作品であることは確かで、観て損したというファンはいないはず。

さすがに、ジェームズ・キャメロンが『T2』以来28年ぶりに復帰し、製作と原案を手掛けているだけのことだけはある。
ついでだから、今夜は久しぶりにキャメロンが監督した『T2』の拡張特別編を観て郷愁に浸るとしよう。

採点は80点。

TOHOシネマズ新宿・日比谷・渋谷、新宿ピカデリーなどで公開中

2019劇場公開映画鑑賞リスト
※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

9『ジョーカー』(2019年/米)90点
8『アポロ11 完全版』(2019年/米)80点
7『主戦場』(2019年/米)85点
6『長いお別れ』(2019年/アスミック・エース)75点
5『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019年/米)80点
4『アベンジャーズ エンド・ゲーム』(2019年/米)75点
3『ファースト・マン』(2018年/米)85点
2『翔んで埼玉』(2019年/東映)80点
1『クリード 炎の宿敵』(2018年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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