『父親たちの星条旗』(NHK-BS)

Flags of Our Fathers 132分 2006年 アメリカ=ワーナー・ブラザース

スティーヴン・スピルバーグ制作、クリント・イーストウッド監督により、日米双方の視点から2本制作された「硫黄島プロジェクト」の1本目。
劇場公開時の2006年10月、ぼくはフリーになってから約5カ月で、ちょうど出版各社の知人友人から〝激励〟や〝お見舞い〟込みの注文が相次いでいたころと重なり、観たかったけれど劇場へ足を運ぶ余裕がなかった。

最初に公開された本作はアメリカ側の視点から硫黄島の戦いを描いている。
画像のポスターとチラシに使われている写真は、太平洋戦争中にニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、全米で新聞のフロントページを飾ったことで知られる「硫黄島の星条旗」“Rising the Flag on Iwojima”。

この写真はアメリカ海兵隊員5人、海軍兵1人が硫黄島の擂鉢山の頂上に星条旗を立てる姿を写真家ジョー・ローゼンタールが撮影したもので、1945年に写真部門でピューリッツァー賞を受賞した。
しかし、最初の掲揚のように報じられたこの写真は、実は星条旗のサイズが小さいためにやり直された2度目の掲揚であり、たまたま現場の戦場にいた兵士たちが支えていたに過ぎない。

ところが、この写真がアメリカで大々的に報じられたことから、旗を立てた兵士たちは一躍英雄扱いされたのみならず、彼らの人気に目をつけた米政府によって戦時国債徴収キャンペーンに利用される。
この企みに担ぎ出されたのが、主人公のジョン・〝ドク〟・ブラッドリー(ライアン・フィリップ)、レイニー・ギャグノン(ジェシー・ブラッドフォード)、アイラ・ヘイズ(アダム・ビーチ)。

アメリカの街から街へと引きずり回され、「戦時国債を買ってください」と国民に呼びかけながら、兵士たちは悩み続ける。
自分たちは決して英雄ではなかった、いや、硫黄島に英雄などいなかった、それなのにこんな茶番を演じていていいのか、と。

映画は彼ら兵士の苦悩と、過酷な硫黄島の戦闘とを交互に描きながら進行する。
イーストウッド流の重く重厚な人間ドラマに、スピルバーグが『プライベート・ライアン』(1999年)で編み出した戦場の描き方が見事にシンクロして、戦争とは人間が英雄になれるようなものではない、ということを痛感させてくれる。

とりわけ印象的なのは、良心の呵責に耐えかね、戦時国債のキャンペーンやパーティーに参加しては浴びるように酒を飲むヘイズの姿だ。
ついには人前で嘔吐する醜態をさらし、上官に先住民族との混血児であることを罵られ、最後にはアル中となってしまう。

ギャグノンは、実際に星条旗を立てたハーロン・ブロック(ベンジャミン・ウォーカー)をヘンリー・〝ハンク〟・ハンセン(ポール・ウォーカー)と間違えたことを後悔していた。
上官に訂正するよう求めても、もう発表したあとだからと相手にされない。

このことが気になっていたヘイズは、自分の住居からテキサスにあるブロックの家まで真相を告げに行く。
1300マイル(約2080キロ)の道程を徒歩とヒッチハイクで辿り着き、ブロックの父親に「あの写真に写っていたのはハンセンじゃなくハーロンだったんです」と告白して、ヘイズはひとり酔い潰れ、民家の倉庫で孤独死してしまう。

3人のうちの1人、本作の主人公でもあるブラッドリーは戦後、この写真に関して沈黙を守り、毎年のように繰り返される取材依頼はすべて拒否、公には一切何も語っていない。
衛生兵として戦闘に参加しながら、何人もの戦友が死んでいったことを目の当たりにした硫黄島の記憶など、二度と振り返りたくなかったからだ。

ブラッドリーはいったい、硫黄島で何を見、どれほど過酷な体験をしたのか。
ほとんど聞かされていなかった息子ジェームズ(トム・マッカーシー)は、かつての父の戦友たちを訪ね歩き、「硫黄島の星条旗」の裏側に秘められた真相を聞いて回っていた。

映画の終盤には、臨終を控えたブラッドリーが病床で自分に寄り添うジェームズに、「いい父親でなくてすまなかったな」と謝罪。
そして、初めて硫黄島での思い出を語る。

「海水浴の話をしたかな?
硫黄島での戦闘が終わったあと、なぜか上官から海水浴をしてもいいという許可が出てな、不思議なもので、みんな子供のように海へ飛び込んではしゃぎ回ったもんだ」

父の話を聞いたジェームズは、「戦場には英雄などいない」という父の言葉を、初めて実感を持って受け止める。
彼が「父さんは最高の父さんだったよ」と年老いた父親を抱きしめる幕切れは、アメリカ映画らしいなと思っても、やはり目頭が熱くなった。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

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70『スーパーマンⅡ リチャード・ドナーCUT版』(2006年/米)B
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68『スーパーマン ディレクターズ・カット版』(1978年/米)A
68『MEG ザ・モンスター』(2018年/米)C
67『search/サーチ』(2018年/米)A
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57『ロマン・ポランスキー 初めての告白』(2012年/英、伊、独)B
56『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』(2017年/米)A
55『ウインド・リバー』(2017年/米)A
54『アメリカの友人』(1977年/西独、仏)A
53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2012年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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