『アメリカの友人』(NHK-BS)

(Der amerikanische Freund/126分 
1977年 西ドイツ、フランス 日本配給:フランス映画社)

劇場公開当時、カンヌ国際映画祭で絶賛され、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが世界的評価を受けるきっかけとなった作品。
中学生だった私は映画雑誌〈キネマ旬報〉でこの映画の存在を知り、モノクロの宣伝用スチールを見て興味を掻き立てられた。

が、当時のヴェンダースには大々的にロードショー公開されるほどの興行価値がなかったためか、広島では上映されず、その後も今日まで観る機会に恵まれなかった。
今回、デジタルリマスター版を2度放送してくれたNHK衛星放送に感謝である。

基本的にはパトリシア・ハイスミスのミステリ小説を原作としたサスペンス映画なのだが、小津安二郎の影響を受けたヴェンダースの人物描写により、通り一遍の娯楽作品とは一線を画した出来栄えになっている。
主人公はドイツのハンブルクで絵画の額縁職人をしているヨナタン・ツィマーマン(ブルーノ・ガンツ)で、タイトルの「アメリカ人の友人」が贋作絵画で金儲けをしているトム・リプリー(デニス・ホッパー)。

そのトムの贋作の作り方が一風変わっている。
彼が絵を描かせているボガーツ(ニコラス・レイ)という贋作画家は、かつてはアンドリュー・ポガッシュ・ダーワットという本職の有名画家だったが、世間ではすでに何年も前に死んだことになっており、現在はボガーツと名を変え、自分で自分の贋作を描いているのだ。

ハンブルクのオークションにトムがボガーツの絵を出品すると、高値で競り落とそうとする画商アラン・ウィンター(デヴィッド・ブルー)にヨナタンが「あの絵は怪しいからやめたほうがいい」と耳打ちする。
それでもアランが落札し、オークション終了後にヨナタンをトムに紹介、トムはヨナタンに握手を求めたら、「あんたの噂はいろいろ聞いている」と言って握手を拒んだ。

ヨナタンがその場を去ったあと、トムはヨナタンが「血液の病気」(白血病らしい)で余命いくばくもないと聞かされる。
そのトムは闇社会に片足を突っ込んでおり、借りのあるギャングのラオール・ミノ(ジェラール・ブラン)から、マフィアの男をひとり消したい、プロより素人のほうが足がつかないだろう、誰か適当な男はいないか、と相談される。

トムはヨナタンの店を訪ね、改めて挨拶を交わし、額縁を注文。
こうしてふたりの奇妙な友だちづきあいが始まると、トムからヨナタンのことを聞いたミノが直接ヨナタンに接触、25万ドルで殺しをしてほしいと依頼する。

この場面はハンブルクの電車の中で、まるでごく普通の仕事の相談をしているかのように演出されている。
突然の依頼が現実とは思えず、戸惑いの表情を浮かべるヨナタンに対し、ミノは反社会勢力の人間らしく、「奥さんと息子に金を残したいだろう」と、あくまでも淡々と話し続ける対比の妙に、えも言われぬ独特の緊張感が漂う。

ヨナタンに死期が迫っていることを納得させるため、ミノはわざわざヨナタンをパリまで連れて行き、白血病の専門医の診察を受けさせる。
検査の結果を知ったヨナタンは、妻マリアンヌ(リザ・クロイツァー)には秘密にしたまま、殺しを請け負うことを決心。

こうした生活感溢れる描写がヴェンダースの敬愛する小津を彷彿とさせ、素人がヤクザから殺しを依頼されるという突拍子もない話にリアリティを与えている。
いざ殺人に取りかかってもうまくいかず、ミノに拳銃を渡され、パリの地下鉄の中ですれ違いざまに標的を射殺すればいい、簡単なことだとミノに言われていながら、いざとなると引き金を引けず、予定していた場所からどんどん遠ざかってしまう。

ミュンヘン発の列車の客室で2度目の殺人を決行するときは、距離を置いてヨナタンを見守っていたトムが加勢するが、なかなか相手を殺しきれない。
私が中学時代、キネ旬で見たのはこの場面のスチールだった。

ヨナタンとトムはどうにか仕事をやりおおせたものの、殺しを依頼したマフィアが彼らを生かしておくはずがない。
いまや協力し合わなければならなくなったふたりは、何とか生き延びようと必死の抵抗を試みるのだが。

ラスト、トムを海岸の街に置き去りにし、マリアンヌを助手席に乗せて赤いフォルクスワーゲンを疾走させるヨナタンの姿が哀しくも熱い。
のちにヴェンダースの名声を決定的にした『パリ、テキサス』(1984年)、『ベルリン・天使の詩』(1987年)ほどの大作では決してないが、心に沁みるような引っかかりを残す佳作。

なお、贋作画家を演じたかつての名匠ニコラス・レイは本作の撮影時、体調を崩しており、本作公開の翌年、ヴェンダースと共同でドキュメンタリー『ニックスムーヴィー 水上の稲妻』(1980年)の監督に取りかかった直後、1979年に肺癌で亡くなっている。
私としては、本作がヴェンダースのベストです。

オススメ度A。

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2019リスト
A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)
※ビデオソフト無し

53『ナッシュビル』(1976年/米)A
52『ゴッホ 最後の手紙』(2017年/波、英、米)A
51『ボビー・フィッシャーを探して』(1993年/米)B
50『愛の嵐』(1975年/伊)B
49『テナント 恐怖を借りた男』(1976年/仏)B
48『友罪』(2018年/ギャガ)D
47『空飛ぶタイヤ』(2018年/松竹)B
46『十一人の侍』(1967年/東映)A
45『十七人の忍者 大血戦』(1966年/東映)C※
44『十七人の忍者』(1963年/東映)C
43『ラプラスの魔女』(2016年/東宝)C
42『真夏の方程式』(2013年/東宝)A
41『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』(2018年/米)B
40『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年/米)B
39『ハン・ソロ スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年/米)C
38『ザ・マミー 呪われた砂漠の王女』(2017年/米)D
37『デッドプール2』(2018年/米)C
36『スキャナーズ3』(1991年/加)C
35『スキャナーズ2』(1991年/米、加、日)C
34『スキャナーズ』(1981年/加)B
33『エマニエル夫人』(1974年/仏)C
32『死刑台のエレベーター』(1958年/仏)B
31『マッケンナの黄金』(1969年/米)C
30『勇気ある追跡』(1969年/米)C
29『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年/米)A
28『ドクトル・ジバゴ 』(1965年/米、伊)A
27『デトロイト』(2017年/米)B
26『クラッシュ』(2004年/米)A
25『ラ・ラ・ランド』(2016年/米)A
24『オーシャンズ13』(2007年/米)B
23『オーシャンズ12』(2004年/米)C
22『オーシャンズ11』(2001年/米)B
21『オーシャンと十一人の仲間』(1960年/米)B
20『マッキントッシュの男』(1973年/米)A
19『オーメン』(1976年/英、米)B
18『スプリット』(2017年/米)B
17『アンブレイカブル 』(2000年/米)C
16『アフター・アース』(2013年/米)C
15『ハプニング』(2008年/米)B
14『麒麟の翼〜劇場版・新参者』(2912年/東宝)C
13『暁の用心棒』(1967年/伊)C
12『ホテル』(1977年/伊、西独)C※
11『ブラックブック』(2006年/蘭)A
10『スペース・ロック』(2018年/塞爾維亜、米)C
9『ブラックパンサー』(2018年/米)A
8『ジャスティス・リーグ』(2017年/米)C
7『ザ・リング2[完全版]』(2005年/米)C
6『祈りの幕が下りる時』(2018年/東宝)A
5『ちはやふる 結び』(2018年/東宝)B
4『真田幸村の謀略』(1979年/東映)C
3『柳生一族の陰謀』(1978年/東映)A
2『集団奉行所破り』(1964年/東映)B※

1『大殺陣』(1964年/東映京都)C

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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