『翔んで埼玉』

(2019年 東映 106分)

2月22日の封切から2週間で興収10億円を突破、アメリカやイタリアでの公開も決まり、今年上半期最大のヒットとなりそうなスラップスティック・コメディ。
原作は魔夜峰央が1982年に発表したナンセンス・ギャグ漫画で、2015年に復刻されたら69万部を売り上げるベストセラーとなり、この実写映画版にまで観客が押し寄せているのだから、世の中は何がウケるかわかりません。

ぼくが観に行ったのはTOHOシネマズ上野、きょう午後2時45分からの回。
きのうネットで席を予約したときは結構空いていたのに、きょう行ってみたら、「この回の切符は売り切れです」と何度も場内アナウンスされていた。

主演がGACKTや二階堂ふみとあって、客層は若いグループ、カップル、親子連れが多かったが、意外にぼくのような年寄りも少なくない。
元ネタの〝埼玉ディス〟が流行った時代に20〜30代だった人たちが、ヒットしていると聞いて興味を抱き、足を運んでいるのでしょう。

ほかならぬぼく自身もその例に漏れず、開巻早々、ブラザートム(埼玉育ち)の運転するワンボックスカーのカーラジオからさいたまんぞうの『なぜか埼玉』が聴こえてくる場面から懐かしくてたまらなくなりました。
沿道に立つ〈山田うどん〉の店と看板が写り込んでいるところも絶妙の味付けになっており、のちに〈山田うどんの歌〉まで流れる。

トムは後部座席の娘(島崎遥香)、助手席の妻(麻木久仁子)を都内のホテルで行われる結納に連れて行く最中。
娘が「結婚したら東京に住めるんだ〜!」と喜んでいるのを聞き咎め、「おまえには埼玉県民としての誇りはないのか!」と声を荒らげる。

そのとき、カーラジオのFM NACK5が埼玉が東京、神奈川に虐げられ、ひどい差別を受けているという都市伝説を語り始め、本筋へ入っていく。
この本編の主人公が、東京都知事の息子で都内屈指の名門高校・白鵬堂学院の生徒会長・壇ノ浦百美(二階堂)、その白鵬堂学院に転校してくるアメリカ帰りの帰国子女・麻実麗(GACKT)。

この高校では、青山、六本木から町田、八王子あたりまで、自宅の〝都会度数〟が高い順にクラスがランク付けされている。
トップエリートの百美、麗は披露宴会場みたいな教室のA組で、埼玉出身の生徒は敷地の片隅に建てられた掘っ建て小屋のZ組。

Z組の生徒が腹痛を起こして医務室へ行こうとすると、A組の生徒たちが通せんぼし、百美が「埼玉県民には草でも食わせておけば治るだろう!」と罵倒。
そんな態度を麗に諌められた百美はほのかな恋心を抱くようになり、麗を父親の都知事・壇ノ浦建造に引き合わせる。

しかし、麗は壇ノ浦邸の執事・阿久津翔(伊勢谷友介)に、「きさま、埼玉だな」と〝隠れ埼玉県民〟であることを見抜かれてしまった。
警察のSAT(実在のSATはSpecial Assault Teamだが、この映画ではサイタマ・アタック・チーム=埼玉急襲部隊)に捕まった麗は、足元にシラコバトが描かれた草加せんべいを置かれ、「埼玉県民でないのならこれを踏んで見せろ!」と、衆人環視の中で踏み絵を迫られる。

これを拒否した麗は百美を連れて東京から逃亡、その行く手には千葉解放戦線との遺恨の抗争、そして建造が牛耳る東京との最終決戦が待ち構えていた。
ここから先の詳述は控えるが、次から次へと矢継ぎ早にギャグと見せ場を繰り出す武内英樹監督の手腕はお見事の一語、1時間46分はあっという間。

二階堂は原作の中性的なキャラクターを熱演しており、ぼくが観た作品の中ではベストの出来栄え。
GACKT、伊勢谷の好演もさりながら、麗の父親・麿赤兒、埼玉解放戦線のカリスマ的リーダー・京本政樹のクソ真面目なコメディ演技も光る。

エンディングでかかるはなわの主題歌『埼玉県のうた』がまた爆笑もので、ぼくは歌詞を目で追うのに忙しく、エンド・クレジットはほとんど見ていなかった。
これからご覧になる人は最後の最後まで席を立たないほうがいいですよ。

採点は80点です。

TOHOシネマズ上野・六本木、新宿バルト9などで公開中

※50点=落胆 60点=退屈 70点=納得 80点=満足 90点=興奮(お勧めポイント+5点)

2019劇場公開映画鑑賞リスト
1『クリード 炎の宿敵』(2018年/米)85点

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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