日本の出版業界はどうしてこうなってしまったのか

文藝家協会ニュース2019年1月号に同封されていた〈本の未来研究会〉リポートNo.5

公益社団法人・日本文藝家協会から毎月送られてくる文藝家協会ニュースに、大変興味深い冊子が添付されていた。
昨年12月4日、協会の会議室において、定期シンポジウム〈本の未来研究会〉で行われた講演の採録である。

講演者は日本書籍出版協会専務理事の中町英樹氏。
なぜここまで本は売れなくなってしまったのか、という以上に、なぜ出版業界は売れない事態を一向に改善できず、いまなおズルズルと悪化する一方なのか、原因と現状が非常にわかりやすく解説されている。

中町氏が「すでに見飽きたような数字ですが」と前置きしている通り、年々深刻化している出版不況はいまや〝当たり前〟の現象になっている。
2017年の書籍・雑誌の出版販売推定金額は1兆2800億円台と、ピークだった1996年の半分にまで下落した。

とりわけ雑誌の減り方が著しく、ピーク時より58.1%減。
書籍のほうはいくらか減り具合が緩やかながら、それでも34.6%ダウンである。

この背景にあるのは、近年ますます進んでいる人口減少とインターネットの発達による外部環境の激変だ。
15歳から64歳までの「生産人口年齢」、つまり最も本を買って読む世代の人々が減っている上、スマホやタブレットの発達により、紙媒体に頼らずニュースのチェックや調べ物をする習慣が全世代的に広がった。

加えて、経済格差の拡大により、習慣として本を買わない(買えない)階層が増え、ベストセラーが出てもブックオフを中心とした古書市場に回り、これが新刊市場を圧迫する現象も起きるようになった。
実際、私の周囲にも、新刊を読んで用済みになったらブックオフに持ち込み、新刊で買うのはお金がもったいないと感じた本はブックオフでセコハンを買う、という人は少なくない。

このように、本を取り巻く環境が大きく変わっているにも関わらず、出版業界のシステムや慣習は何一つ変わっていない。
再販制度・委託販売制度・固定マージンという旧態依然としたビジネスモデルに寄りかかったまま、ただ本が売れない、本が売れない、と嘆いているだけのようにも感じられる。

異業種では1990年代、小売・卸・メーカーの間に流通革命が起こり、新たなビジネスモデルと業態の改革に成功した。
音楽業界でもYouTubeなどの発達によって楽曲が無料で聴けるようになり、CDやDVDが売れなくなると、ライブイベントのセールスや集客に力を入れる方向へ転換していった。

そうした現象を指して「モノ(商品=本)だけではなくコト(実演)、生きている実感や生のものに触れたいという消費者の欲求が強くなってきているのです」(カッコ内は赤坂英一の補足)と中町氏は指摘する。
では、そういう欲求に応える本とはどのようなものなのか、これからは私のようなしがない書き手も、しっかり考えて仕事に取り組まなければならない。

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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