『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(WOWOW)

War for the Planet of the Apes

 『猿の惑星』は旧シリーズ全5作(1968~73年)からティム・バートンによるリメイク版(2001年)までならすべて見ているが、新たなリブート版『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年)はあまり面白いとは思えなかった。
 シーザーをはじめとする猿たちのCGメイクがあまりにも作り物めいて見え、終始違和感が拭えず、感情移入できなかったのが最大の原因である。

 だからリブート版シリーズ第2作『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(2014年)はWOWOW放送時にもスルーしてしまったのだが、いまになって大いに後悔している。
 それくらい、このシリーズの掉尾を飾る第3作は面白く、完成度も高く、旧シリーズにも匹敵する興奮と感動を覚えた。

 ただし、巻頭のテロップによる説明が非常に詳しく、親切なので、第2作を見ていなくても十分に楽しめる。
 これは監督のマット・リーヴズ自ら手がけた脚本(マーク・ボンバックと共同)のアイデア、キャラクター造形の巧みさに負うところが大きい。

 冒頭、人間と猿との戦争が始まってから2年、人間たちの軍隊レッド・オメガが森の奥深くにある猿の集落を攻撃するが、シーザー(アンディ・サーキス)をリーダーとする猿の軍隊に返り討ちにされる。
 シーザーは捕らえた人間プリーチャー(ガブリエル・チャバリア)らを殺そうとせず、「人間が攻めてこなければ猿も人間を攻めないと伝えろ」というメッセージを託して釈放する。

 しかし、オメガのリーダー、大佐(ウディ・ハレルソン)は自ら猿の集落を襲撃し、シーザーの妻コーネリアと息子ブルーアイズを殺害。
 平和主義者だったシーザーは復讐の鬼と化し、大佐とオメガ部隊の追撃に乗り出して、同じチンパンジーのロケット(テリー・ノタリー)、オランウータンのモーリス(カリン・コノヴァル)、ゴリラのルカ(マイケル・アダムスウェイト)ら旧友たちが同行する。

 途中で知り合ったバッド・エイプ(スティーヴ・ザーン)に、オメガの基地が雪山の中にあることを聞いたシーザーたちは、潜入しようとしたところを大佐たちに捕まってしまう。
 基地の中に連行されると、集落に残してきたはずの猿の仲間たちも囚われの身となっており、石切場で巨大な壁を築く過酷な強制労働に従事させられていた。

 大佐はシーザーを自室に呼びつけると、実は自分たちは人間界における反乱軍であり、もうすぐここへ攻めてくる部隊本隊を迎え撃つために壁を築かせているのだと打ち明ける。
 さらに、地球上にはいま猿インフルエンザ(ALZ113)が蔓延していて、これに感染した人間は口が利けなくなり、猿と同じ動物と化してしまう、だから自分の息子も感染したとわかったときに殺したのだ、と。

 この猿インフルエンザというアイデアがまことに秀逸で、この新シリーズの最大のキモと言っていい。
 ウイルスの蔓延を防ぐ手立てはなく、いまに人間たちはひとり残らず猿と化すだろう、そして「地球は猿の惑星となるのだ」とハレルソンが語るシーンは異様なまでの迫力である。

 そうした最中、人間への憎悪と自身の葛藤に揺れるシーザーの顔が、どんどん人間臭くなってゆき、第1作では嘘臭く見えた精巧なCGメイクが真価を発揮。
 事ここに至って、大佐が「まるで人間のような顔をしているな」と感に堪えないように語る場面も印象に残る。

 クライマックスではヘリ部隊で襲撃してきた本体とオメガ部隊との人間対人間の戦争の最中、檻から抜け出した猿たちが暴れだし、凄絶な三つ巴の戦いが繰り広げられる。
 ああ、返す返すも第2作を見ておけばよかった。

 オススメ度A。

(2017年 アメリカ=20世紀FOX 140分)

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
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33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
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29『メッセージ』(2016年/米)B
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27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
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24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
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20『激流』(1994年/米)C
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18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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