『激ペンだ! オレは史上最狂の巨人ファン』白取晋

神保町のスポーツ専門古書店〈ビブリオ〉で販売されていた元報知新聞記者・白取晋さんの著書。
『激ペン』は1980年に白取さんが報知で書き始めた名物コラムのタイトルで、ぼくが東スポに連載中のコラム『赤ペン‼』はこれに倣っている。

白取さんは80年4月の連載開始から93年6月に亡くなって絶筆となるまで、毎日毎日、シーズン中は全試合を球場で取材し、『激ペン』を書き続けた。
ぼくが覚えている限り、執筆を休んだのは大病で入院せざるを得なかった晩年ぐらいではなかったか。

白取さんの知遇を得たころ、ぼくは日刊ゲンダイの駆け出しの記者で、親しく口を利くには恐れ多い存在だったが、あの大先輩はいつも気さくに声をかけてくださった。
『激ペン』で巨人を手厳しく批判することも多いため、いつも選手とは一定の距離を置いていたが、実はまだ控えの内野手だった川相昌弘・現巨人二軍監督を可愛がっていたこともよく覚えている。

本書は白取さんが『激ペン』の連載を始めてから2年後の84年、書き下ろしで著したもの。
当時は78年に江川卓がドラフト破りで巨人に入団した「空白の一日事件」、79年に長嶋茂雄が突如監督を解任された衝撃がまだプロ野球ファンの間に生々しく残っていた時代である。

一般社会全体がアンチ巨人の空気に色濃く覆われていたこのころ、白取さんは『激ペン』で堂々と「オレは巨人ファンだ」と名乗りをあげた。
本書によると、こんな具合に。

「巨人ファン以外の人間に『ワタシ、巨人ファンなんですけど』というと、バカにした目、蔑んだ目、トゲトゲしい目、白々しい目、冷たい目、ケンカを売る目、白い目、黒い目、黄色い目といったぐあいに、目玉の品評会みたいな光景に出っくわす」

「悪いけど、オレは巨人ファンだ。
ファンといってもただのファンではない。ウルトラC的熱狂苛烈超ド級派スペシャル、とカタカナでサンドウィッチされた漢字の世界のファンなのだ」

「『ファン』というのは、日本語で正確にいえば気狂いだ。
 さらに正確にいえば、オレは巨人気狂いド中年となる。
 地獄と極楽を背中合わせに持つシビアな世界に生息するヒトだ」

この時代、巨人ファンであることは世間と戦うことだった、という著者の置かれた立場と、「巨人軍機関紙」と揶揄された報知新聞記者としての気概がヒシヒシと伝わってくる。
藤田元司、広岡達朗、江川に原といった昭和のプロ野球人との喧嘩腰の会話も実に面白い。

巨人ファンであるということは、一つの主義、覚悟、哲学を持つことでもあると教えてくれる一冊。
21世紀に生きるいまの若いファンにも一読をオススメしたい、けど、面白がってくれるかどうかとなると、オッサンには今ひとつ自信がありません。

(発行:経済往来社 初版:1984年5月8日 定価:950円/古書)

2018読書目録

15『戦国と宗教』神田千里(2016年/岩波書店)
14『陰謀の日本中世史』呉座勇一(2018年/KADOKAWA)
13『無冠の男 松方弘樹伝』松方弘樹、伊藤彰彦(2015年/講談社)
12『狐狼の血』柚月裕子(2015年/KADOKAWA)
11『流』東山彰良(2015年/講談社)
10『炎と怒り トランプ政権の内幕』フランク・ウォルフ著、関根光宏・藤田美菜子他10人訳(2018年/早川書房)
9『カシタンカ・ねむい 他七篇』アントン・チェーホフ著、神西清訳(初出1887年~/岩波書店)
8『子どもたち・曠野 他十篇』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1888年~/岩波書店)
7『六号病棟・退屈な話 他五編』アントン・チェーホフ著、松下裕訳(初出1889年~/岩波書店)
6『最強軍団の崩壊』阿部牧郎(1980年/双葉社)
5『女子プロレスラー小畑千代 闘う女の戦後史』秋山訓子(2017年/岩波書店)
4『白鵬伝』朝田武蔵(2018年/文藝春秋)
3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房) 
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)


スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
先頭に戻る