『ハクソー・リッジ』(WOWOW)

Hacksaw Ridge

 前項『リリーのすべて』と同じく、1900年代前半に実在した人物を主人公にした実話ダネ。
 見る前は何の予備知識もなく、アメリカがなぜいまごろ太平洋戦争の沖縄戦を映画化する気になったのか、訝りながら録画を再生したところ、非常にがっちり作られており、所々で違和感を覚えながらも感動させられた。

 アンドリュー・ガーフィールド演じるデズモンド・ドスはヴァージニア州に生まれ育った若者で、第2次世界大戦の最中、自ら兵役に志願しながら、いざ陸軍に配属されて訓練を受ける段になると、ライフル銃を手に取ろうとしない。
 幼少期に兄と喧嘩をし、レンガで頭を殴ってケガをさせた経験がトラウマになって、「汝、殺すなかれ」という聖書の教えを守り通す決意をしていたからだ。

 同じ大隊の兵士たちからリンチに遭い、大隊長(サム・ワーシントン)に「武器が使えないのなら除隊しろ」と迫られても信念を変えず、ついに恋人ドロシー(テレサ・パーマー)との結婚式当日に規律違反で拘束されてしまう。
 しかし、軍法会議で有罪の判決が下る直前、第1次世界大戦で勲章をもらっていた父(ヒューゴ・ウィーヴィング)の嘆願によって無罪となり、沖縄へ送られることになった。

 2時間20分の上映時間のうち、ここまでが約1時間と、監督メル・ギブソンはドスの信仰心の篤さを描くのにじっくり時間をかけている。
 ドスが銃を取らないのは個人的トラウマと信仰心によるものだという説明は、私のようにキリスト教徒ではない日本人には納得し難いが、実はもうひとつ大きな理由があったことがのちに明らかになる。

 沖縄のハクソー・リッジに派遣されたドスは、激しい銃火をかいくぐりながら、ひとりでも多くの戦友を救おうと奮闘。
 この後半の迫力はさすが本業がアクション俳優のギブソンならではで、肉弾戦の残虐描写は『プレイベート・ライアン』(1998年)以降、いささか見飽きた感もあるが、ついつい引き込まれてしまう。

 この種の映画の常として、日本兵がアメリカ人と同じ人間扱いされていないこと、アメリカ軍が兵士以外の沖縄県民を虐殺したことにはまったく触れられておらず、これには私も違和感を覚えた。
 ただし、これはあくまでアメリカ人から見た沖縄戦だと割り切れば、伝記映画としてもエンターテインメントとしても大変見応えのある力作と言える。

 オススメ度A。

(2016年 アメリカ=サミット・エンターテインメント/日本配給=キノフィルムズ 140分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

63『リリーのすべて』(2016年/米)A
62『永い言い訳』(2016年/アスミック・エース)A
61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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