『永い言い訳』(WOWOW)

 広島出身の西川美和が、自身の同名原作小説を映画化した長編監督作品第5作。
 今回も、主人公の作家・本木雅弘が、妻の美容師・深津絵里に自宅マンションのリビングで髪を切ってもらいながら、延々と愚痴を吐き続けるオープニングから、いきなり作品世界に引き込まれる。

 本木の演じる作家・津村啓は本名を衣笠幸夫といい、元広島カープの鉄人と同姓同名の音読みであることから、作家として認められるまで、ずっとコンプレックスを引きずっていた。
 これは(たぶん)カープファンならではの西川のシャレだろうと思いながら見ていたら、「オレをサチオくんと呼ぶのやめてくれる?」と本木が深津に注文するあたりから、だんだんマジになってくる。

 高校や大学を卒業してから音信の途絶えていた同級生が急に馴れ馴れしい態度で連絡を寄越してくるなど、ちょっとしたことにもイライラして、妻に不満をぶつけないではいられない。
 このあたりは、おれのようにごくごく一部でしか名前が知られていない程度のスポーツライターにも実感できる。

 学生時代からつきあい始め、売れないころに美容師をしながら自分を支えてくれた妻のことも、本木はいまやまったく愛せなくなっていた。
 その妻が女友達と山梨へスキーに出かけるや、本木がすぐに女性編集者・黒木華をマンションに引っ張り込んだその夜、妻はバスの転落事故で死んでしまった。

 しかし、本木はまるで悲しみを感じず、葬儀やテレビインタビューではしおらしいことを言っていたものの、しばらくすると編集者による接待で花見に興じ、酔って歌って大騒ぎ。
 その最中、編集者のひとり・岩井秀人が、「奥さんを亡くしたことを書いたらどうか」と迫ってくる。

 「おれ、最近の先生が書くものには温度も衝動も感じないんですよね」
 このセリフにはおれ自身グサリと突き刺さるものを感じ、本木が逆上して暴れ回る演技にも異様なほどの説得力があった。

 本木はやがて、妻とともに事故で亡くなった女友達の夫で、自分の幼馴染でもあったトラック運転手・竹原ピストルとつきあうようになる。
 家を空けがちな竹原に代わり、ふたりの子供(藤田健心、白鳥玉季)の面倒を見ることを買って出て、生まれて初めて育児に追われていたころ、別の編集者・戸次重幸に言われる。

 「それ、取材ですか」
 戸次はそう言ってスマホに保存してある自分の子供ふたりの写真を見せ、「子供って、男の免罪符なんですよね」と、本木を挑発するかのように言い募る。

 果たしてここから先、どのように展開するのか、最後にどんなラストシーンが待ち構えているのか、大いに期待し、固唾を呑んで見守った。
『蛇イチゴ』(2003年)、『ゆれる』(2006年)、『夢売るふたり』(2012年)など、これまでの作品では鮮やかで意表を突いた幕切れが記憶に残っているだけに。

 しかし、本作の結末は、最終的に落ち着くべきところに落ち着いた、という印象が強い。
 ラストシーンのもう一つ手前、ひとりで電車に乗った本木が手帳に独白を書き付ける場面で終わらせ、あとは観客の想像に委ねたほうがよかったんじゃないか。

 という不満はあるものの、とりあえずは納得のいくエンディングに、西川監督が円熟の域に達した感が漂ったのも確か。
 オススメ度A。

(2016年 アスミック・エース 124分)

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

61『強盗放火殺人囚』(1975年/東映)C
60『暴動島根刑務所』(1975年/東映)B
59『脱獄広島殺人囚』(1974年/東映)A
58『893愚連隊』(1966年/東映)B
57『妖術武芸帳』(1969年/TBS、東映)B
56『猿の惑星』(1968年/米)A
55『アンドロメダ・ストレイン』(2008年/米)C
54『ヘイル、シーザー!』(2016年/米)B
53『パトリオット・デイ』(2016年/米)A
52『北陸代理戦争』(1977年/東映)A
51『博奕打ち外伝』(1972年/東映)B
50『玄海遊侠伝 破れかぶれ』(1970年/大映)B
49『暴力金脈』(1975年/東映)B
48『資金源強奪』(1975年/東映)B
47『ドライヴ』(2011年/米)C
46『バーニング・オーシャン』(2016年/米)A
45『追憶の森』(2015年/米)B
44『22年目の告白 -私が殺人犯です-』(2017年/ワーナー・ブラザース)B
43『パットン大戦車軍団』(1970年/米)B
42『レッズ』(1981年/米)B
41『ニュートン・ナイト 自由の旗をかかげた男』(2016年/米)B
40『エクス・マキナ』(2015年/米)B
39『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年/西)B
38『ムーンライト』(2016年/米)B
37『アメリカン・バーニング』(2017年/米)B
36『セル』(2017年/米)C
35『トンネル 闇に鎖された男』(2017年/韓)B
34『弁護人』(2013年/韓国)A
33『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年/クロックワークス)A
32『チア☆ダン~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~』(2017年/東宝)B
31『南極料理人』(2009年/東京テアトル)B
30『沈黙 -サイレンス-』(2016年/米)B
29『メッセージ』(2016年/米)B
28『LOGAN/ローガン』(2017年/米)C
27『チャック~“ロッキー”になった男~』(2017年/アメリカ)B
26『ヒッチコック/トリュフォー』(2015年/米、仏)B
25『沖縄やくざ戦争』(1976年/東映)B
24『恐喝こそわが人生』(1968年/松竹)B
23『われに撃つ用意あり』(1990年/松竹)C
22『T2 トレインスポッティング』(2017年/英)A
21『ロスト・エモーション』(2016年/米)C
20『激流』(1994年/米)C
19『チザム』(1970年/米)B
18『駅馬車』(1939年/米)A
17『明日に処刑を…』(1972年/米)A
16『グラン・ブルー[オリジナル・バージョン]』(1988年/仏、伊)B
15『エルストリー1976- 新たなる希望が生まれた街 -』(2015年/英)D
14『I AM YOUR FATHER/アイ・アム・ユア・ファーザー』(2015年/西)B
13『サム・ペキンパー 情熱と美学』(2005年/独)B
12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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