『追憶の森』(WOWOW)

The Sea of Trees

 原題は読んで字の通りの「樹海」で、富士山の麓にある自殺の名所、青木ヶ原が舞台となっている。
 アメリカからここへ死ぬためやってきたマシュー・マコノヒーが、死に切れずに彷徨している渡辺謙と巡り会い、一転して樹海から脱出しようと悪戦苦闘する、という物語。

 青木ヶ原には15年ほど前、私も一度だけ入ったことがある。
 自殺しようと思ったわけではもちろんなく、マウンテンバイクのツアーでトレイルを走ったのだが、放置された遺体が発しているらしき異臭が鼻を突き、何とも形容し難い不気味さを感じたものだ。

 ただし、本作の冒頭に出てくる自殺者の靴、遺体や白骨などはまるで見られなかったから、このホラー映画じみた描写は大袈裟に思えてならない。
 映画の中では「2003年に105体の自殺死体が発見された」と自殺者の多いことが強調されているが、近年は地元の警備隊の努力もあり、年々減少しているとも言われる。

 行きがかり上、血みどろの渡辺を助けなければならなくなって、マコノヒーはいったん自殺を断念。
 樹海の出口を探しながら、お互い何故死のうとしていたのかを打ち明け合って、映画はマコノヒーが妻のナオミ・ワッツを思い出す回想場面に移る。

 マコノヒーは職を失い、妻ワッツの収入に頼らざるを得ない時期が長く続いていたことから、夫婦関係が破綻していた。
 そうした最中、妻に脳腫瘍が見つかり、看病しなければならなくなって愛情が蘇るのだが、その矢先に想像だにしなかったアクシデントに見舞われる。

 そうした不幸な思い出をマコノヒーが語り、渡辺がじっと聞き入るシーンは、さすが日米を代表する役者の二人芝居だけあり、なかなかの見応え。
 しかし、このあたりからオチが見えてくることも確かで、結末への興味が削がれるのは如何ともし難い。

 監督は『ミルク』(2008年)で高く評価されたガス・ヴァン・サント。
 青木ヶ原の中でのロケ撮影は難しかったらしく、ほとんどの場面はアメリカ北部のF・ギルバートヒルズ国有林やコカセット川流域で撮られたという。

 カンヌ映画祭では、「どうしてアメリカ人がわざわざ日本の樹海まで自殺しに行くのか」「ストーリーが単調で退屈だ」として、大変なブーイングを浴びたらしい。
 日本人の私としては、それほどひどい映画ではなく、虚心坦懐に楽しめるファンタジーだと思いますが。

 オススメ度B。

(2015年 アメリカ=A24/日本配給2016年 東宝東和 111分)

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※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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