『白鵬伝』朝田武蔵

 WEDGE infinity『赤坂英一の野球丸』やTBSラジオ『森本毅郎スタンバイ!日本全国8時です』で何度も書いたりしゃべったりしているように、ぼくがインタビューしたときの横綱・白鵬は極めて魅力的な人物だった。
 とりわけ相撲に関しては非常に稽古熱心、かつ研究熱心で、決して張り手やかち上げでがめつく勝ち星を拾いにいくだけの相撲取りではない。

 会見や囲み取材ではどうしても表向きの話だけに終始してしまうし、そもそもモンゴル人なのだから日本語では微妙なニュアンスが伝わりにくい。
 だから、通訳をつけてでもメディアのロングインタビューを受け、自分の相撲観をじっくり語ったらどうか、と思っていたらこういう本が出た。

 第1部は大鵬の優勝32回の記録を抜くまで、第2部は双葉山の69連勝を抜こうとして63連勝で止まるまで、第3部は大関・魁皇を抜く幕内最多勝1048勝を記録するまでの3部構成。
 著者があとがきで書いている通り、オーソードクスな評伝ではなく、節目の新記録に焦点を絞り、白鵬がいかにして自分の「横綱相撲」をつくりあげていったか、が描かれている。

 とりわけ、双葉山のビデオを何度も見て、「後の先」の取り口を磨き、自分の相撲に取り入れていったくだりが興味深い。
 また、横審に厳しく批判された張り差しとかち上げも、白鵬が自分なりに熟慮と経験を重ねた末の取り口のひとつであり、白鵬自身は「美しくない」などとは小指の先ほども考えていない(いなかった)、ということもよくわかる。

 著者は文藝春秋のウェブサイトで「白鵬讃歌ではない」と語っているが、本書はどこからどう読んでも「白鵬讃歌」だ。
 体言止め、改行、リフレインを多用し、白鵬の相撲がいかに奥が深く、その過程で育まれた力士としての人格が優れているかを謳い上げている。

 ただし、こういう横綱・白鵬の相撲観を知って、人間・白鵬に共感を覚えるかどうかは人それぞれだろう。
 その意味で、もっと素顔、私生活、モンゴルでの幼少期を掘り下げたエピソードを盛り込んでもよかったように思う。

(発行:文藝春秋 第1版第1刷:2018年1月25日 定価:1800円=税別)

2018読書目録

3『ザナック/ハリウッド最後のタイクーン』レナード・モズレー著、金井美南子訳(1986年/早川書房) 
2『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』ダン・アッカーマン著、小林啓倫訳(2017年/白楊社)
1『路(ルウ)』吉田修一(2012年/文藝春秋)

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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