『T2 トレインスポッティング』(WOWOW)

T2 Trainspotting

 まさか、20年も経ってから『トレインスポッティング』(1996年)の続編がつくられるとは思ってもみなかった。
 しかも、マーク・レントン(ユアン・マクレガー)、スパッド/ダニエル(ユエン・ブレムナー)、サイモン/シック・ボーイ(ジョニー・リー・ミラー)、フランク/ベグビー(ロバート・カーライル)、ダイアン(ケリー・マクドナルド)と、顔ぶれはまったく同じ。

 もちろん、監督ダニー・ボイル(製作も兼務)、脚本ジョン・ホッジ、製作アンドリュー・マクドナルドと、主要スタッフも20年前と変わらない。
 よっぽど前作に愛着があったのだろうが、それはあの映画に熱狂した当時のファンも同じで、その期待を裏切らないものにできるかどうか、相当なプレッシャーがあったはず。

 20年前の前作は、スコットランドのエディンバラで暇を持て余したクソみたいな若者たちのクソみたいな青春を描いた映画だった。
 実際、あの作品では何よりも序盤にレントンが駆け込むトイレの描写が秀逸で、あのクソが匂い立つような不潔さはいまもくっきりと記憶に残っている。

 その前作で、ヘロインやコカインをやめようとしてもやめられないレントンたち半端者の4人組は、麻薬を買う金が必要になって強盗に走った。
 どうにか1万6000ポンドの現金を奪い取り、独り占めしたレントンがばっくれたところで終わっている。

 あれから20年後、いまや46歳のレントンはジムのトレッドミルで汗を流している最中、スピードについていけなくなって転倒し、すぐには起き上がれないようなオッサンだ。
 ひとりでエディンバラに帰ってくると、駅前に「エディンバラへようこそ!」と呼びかけながら観光客用のパンフレットを配っている若い女の子がいて、「キミ、どこから来たの?」と聞くと、「スロベニアよ」という答え。

 この開巻のツカミがまことに秀逸。
 エディンバラに行ったことがなくても、故郷の街の様変わりと、もう若くはないレントンの感じた寂しさと違和感がリアルに伝わってくる。

 かつての仲間スパッドはブルガリアから出稼ぎに来ていた娼婦ベロニカ(アンジェラ・ネディヤルコーヴァ)と組んで恐喝をやっていた。
 レントンが20年前の裏切りを詫び、スパッドに分け前の4000ポンドを差し出すと、「いまさら何だ! 20年も経っているのに利子もつけてねえのか!」と激昂、その場でボコボコにされてしまう。

 サイモンはクスリを経つことができず、レントンが訪ねたときは、ちょうどいままさに自殺しようとしていたところ。
 すんでのところで助けたレントンに向かって、「バカヤロー! オレはジャンキーだぞ! 4000ポンドもあったらヤクを買っちまうに決まってるだろ!」とサイモンが怒鳴りつけると、「それもそうだなあ」とレントンがうなずいているのがおかしくも生々しい。

 レントンはまたスパッドとつるんでカード泥棒を始める。
 その最中にベロニカと意気投合し、やがてサイモンの目を盗んで彼女と寝るようになった。

 ベロニカはスパッドを愛してはいないが、彼が善人で、根は小心者だということは知っている。
 そんなスパッドにいつも「人生を選べ」と言い聞かされている、とベロニカに聞いて、レントンは言い募る。

「人生を選べってのは、1980年代の麻薬撲滅キャンペーンのキャッチフレーズだ。
 おれたちはさっさと麻薬をやめて、本当の人生を選べ、未来を選べと言われたんだよ。
 そんなの、派手な柄の下着を選べと言ってるのと同じだ、愛のある関係を続けるためにね。
 世の中の連中はいま、Facebook、Twitter、Instagramで全世界に朝飯の写真をばら撒き、胆汁を吐き散らしてる。
 結局、いまも昔も、フレーズを弄んでるだけなんだ」

 このセリフはまことに強烈。
 最近、映画を見ていて、これほど胸に突き刺さってきた強烈な言葉はほかにない。

 一方、自殺し損なったサイモンは、スパッドが新たに開店するサウナの内装工事を手伝いながら、これまでの自分の半生を小説にしようと原稿を書き始める。
 そうした最中、かつてレントンが裏切ったもうひとりの仲間フランクが刑務所から脱走、強盗稼業を再開し、レントンたちに復讐しようと迫っていた。

 クソみたいな若造だったやつらは、20年たってもクソみたいなおっさんになっていただけだった。
 クソみたいな青春の延長線上には、やっぱりクソみたいな人生しかなかった。

 そういう物語を、ダニー・ボイルはカッコイイを音楽フィーチャーしたカッコイイ映像で一気に見せる。
 見終わったあと、おれももう少し頑張らなくちゃなあ、と前向きな気分にさせてくれるところも前作と変わらない。

 オススメ度A。

(2017年 イギリス=ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント 118分)

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スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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