『サム・ペキンパー 情熱と美学』(WOWOW)

Passion&Poetry: The Ballad of Sam Peckinpah
115分 2005年 ドイツ 日本公開:2015年 配給:太秦、マグザム

ドイツ出身のプロデューサー、マイク・シーゲルという人物が製作したサム・ペキンパーの伝記ドキュメンタリー映画。
彼自身が書いたペキンパーの評伝(邦訳未刊行)がベースになっており、私財を投じてつくりあげた作品だという。

ペキンパーは生前、アメリカ先住民の血を引いていると自称していたが、これはギミックで、実はドイツ系移民の子孫。
もともとの苗字はベッケンバッハだったが、アメリカに移民してからペキンパーに改められた、という意外な出自がオープニングで語られる。

当初は舞台の演出家を目指していたが、ドン・シーゲルについてテレビドラマの世界に入り、人気シリーズ『ガンスモーク』(1955~75年/CBS)、『ライフルマン』(1958~63年/ABC)の脚本を手がける。
1961年に『荒野のガンマン』で監督デビューすると、翌62年に当時の西部劇スター、ジョエル・マクリーとランドルフ・スコットの最初で最後の共演作品『昼下りの決斗』でブレーク。

しかし、続くチャールトン・ヘストン主演の大作ウエスタン『ダンディー少佐』(1965年)で、編集権をめぐり、製作者のジェリー・ブレスラーと衝突。
トラブルメーカーというレッテルを貼られながらも『ワイルドバンチ』(1968年)で再起を果たし、『砂漠の流れ者 ケーブル・ホーグのバラード』(1970年)、『わらの犬』(1971年)、『ジュニア・ボナー 華麗なる挑戦』(1972年)、『ゲッタウェイ』(1973年)、『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(同)と、傑作、ヒット作を連発してバイオレンス・アクションの巨匠となった。

コメンテーターはジェームズ・コバーン、クリス・クリストファーソン、アーネスト・ボーグナイン、アリ・マッグローらかつてのスターに加え、デヴィッド・ワーナー、ボー・ホプキンス、L・Q・ジョーンズ、R・G・アームストロングらペキンパー作品に欠かせなかったバイプレーヤーたちも登場。
ペキンパーの妹ファーン・リー・ピーター、娘ルピタ・ペキンパーなど、肉親も貴重な証言を寄せている。

個人的にショックを受けたのは、『戦争のはらわた』(1977年)のころにはウォッカやズブロッカを1日にボトル4本も空けるほどのアルコール依存症になっていたこと。
コバーンによれば、当然撮影中も酒は抜けておらず、酔っ払ったまま演出していたという。

その後、重度のコカイン中毒になり、「私の目の前で鼻から白い粉を吸い始めたのを見てびっくりした」という妹ピーターのセリフには耳を疑いたくなった。
〝遺作〟となったジュリアン・レノンのミュージック・ビデオ撮影に臨む際には、プロデューサーのマーティン・ルイス(コメディアンでもある)にヒステリックな言動を連発した上、撮影場所へ移動している車中でルイスの服にカップスープをぶちまけるなど、完全に常軌を逸していた。

1984年に亡くなったときは59歳だったが、他界する直前の映像を観ていると、70歳より若いとは思えない。
というわけで、最後は大変複雑な気分にさせられたものの、非常に貴重なドキュメンタリーであることは確か。

オススメ度B。

旧サイト:2018年01月29日(月)付Pick-up記事を再録、修正

ブルーレイ&DVDレンタルお勧め度2018リスト
 ※A=ぜひ!(^o^) B=よかったら(^^; C=ヒマなら(-_-) D=やめとけ(>_<)

12『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』(1973年/米)B
11『わらの犬』(1971年/米)A
10『O嬢の物語』(1975年/仏、加、独)C
9『ネオン・デーモン』(2016年/仏、丁、米)D
8『団地』(2016年/キノフィルムズ)B
7『スティーブ・ジョブズ』(2015年/米)B
6『スノーデン』(2016年/米)A
5『キングコング:髑髏島の巨神』(2017年/米)B
4『ドクター・ストレンジ』(2016年/米)B
3『残酷ドラゴン 血斗竜門の宿』(1967年/台、香)B
2『新宿インシデント』(2009年/香、日)B
1『日の名残り』(1993年/英、米)A

スポーツライター。 1986年、日刊現代に入社。88年から運動部記者を務める。2002年に単行本デビュー作『バントの神様 川相昌弘と巨人軍の物語』(講談社)を上梓。06年に独立。『失われた甲子園』(講談社)新潮ドキュメント賞ノミネート。東スポ毎週火曜『赤ペン!!』連載中。 東京運動記者クラブ会員。日本文藝家協会会員。
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